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福岡高等裁判所那覇支部 平成7年(行コ)1号 判決 1996年10月31日

控訴人

名護税務署長

本永慎三

右指定代理人

都築政則

外一二名

被控訴人

阿波根昌鴻

阿波根喜代

右両名訴訟代理人弁護士

新垣勉

阿波根昌秀

仲山忠克

池宮城紀夫

島袋勝也

伊志嶺善三

被控訴人阿波根喜代訴訟代理人弁護士

藤井幹雄

右両名輔佐人

加藤俊也

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

主文と同旨。

第二  事案の概要

一  被控訴人らの請求

1  控訴人が、被控訴人阿波根昌鴻の昭和六二年分所得税にかかる更正の請求について、平成元年四月五日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

2  控訴人が、被控訴人阿波根喜代の昭和六二年分所得税にかかる更正の請求について、平成元年四月五日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

二  争いのない事実

原判決三枚目表二行目の「使用」及び同三行目の「収用」をそれぞれ「使用等」に改め、同裏六行目の「使用裁決をした」の次に「(以下、被控訴人らに対する使用裁決を「本件使用裁決」という。)」を、同四枚目表五行目の「右各損失補償金」の次に「(以下「本件損失補償金」という。)」を、同九行目の「正処分」の次に「(以下「本件更正処分」という。)」をそれぞれ加えるほかは、原判決事実及び理由欄の「第二 事案の概要」「一 争いのない事実等」(原判決二枚目裏一〇行目から同五枚目表一行目まで。原判決添付別紙を含む。)に記載のとおりであるから、これを引用する。

三  争点

次のとおり付加訂正するほかは、原判決事実及び理由欄の「第二 事案の概要」「二 争点」(原判決五枚目表三行目から同一四枚目裏六行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決五枚目裏六行目の「過大であり」を「と過大であり」に、同六枚目裏末行から同七枚目表五行目までを「そして、本件損失補償金には、昭和六二年法律第九六号による改正前の租税特別措置法(以下「租特法」という。)三三条の四第一項、そうでないとしても租特法三一も条の二第一項、そうでないとしても租特法三一条の適用があり、その各場合の被控訴人らの税額は別表のとおりであるから、本件更正処分は右課税額を差し引いた過大税額分は取り消されるべきである。」に、同八枚目裏六行目の「収用」を「使用等」にそれぞれ改め、同一一枚目表三行目の「一号」及び同四行目の「全部の」をそれぞれ削除し、同裏七行目の次に改行の上「 仮に、本件損失補償金が譲渡所得に当たるとしても、租特法三三条の四第一項の特例については、同条三項一号、同条四項の要件を充たしていないから、これを適用することはできない。」を加え、同一二枚目表五行目の「が、その年の総所得金額に対する合計額」を「をもってその年分の課税総所得金額に係る所得税の額」に改め、同一三枚目表二行目から同四行目までを削除し、同末行の「計算した所得金額」を「計算した課税総所得金額」に、同行の「所得金額を算出し」を「所得税の額を算出し」に、同裏一行目及び同三行目の各「所得金額」をいずれも「総所得金額」に、同一行目の「資産所得」を「資産所得の金額」に、同三行目の「資産所得額」を「資産所得の金額」に、同一四枚目表六行目の「所得金額」を「所得税の額」に、同八行目の「合算課税」を「平均課税及び合算課税」にそれぞれ改め、同裏六行目の「賦課決定処分を行った。」の次に「なお、右賦課決定処分については、更正処分又は原処分が取り消されるなどして過少申告加算税の計算の基礎となる所得税額に変動が生じた場合は格別、そうでない限り、被控訴人らが法定の期間内に所定の不服申立てをしなかったことにより確定したものであるから、被控訴人らの主張する信義則違反の事由により取り消される余地はない。」を加える。

第三  争点に対する判断

一  本件損失補償金を収入すべき時期

1  所得税法は、所得税に関し、一暦年を単位として、その期間ごとに課税所得を計算し、課税することとしている。したがって、所得がどの年分に帰属するか、ひいては収入がどの年分に帰属するかは重要な問題である。この点について、同法三六条一項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とすると定めている。これは、現実の収入の有無にかかわらず、その収入の原因たる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして右権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用したものであり、右にいう収入の原因となる権利が確定する時期はそれぞれの権利の特質を考慮して決定されるべきものである(最高裁昭和五三年二月二四日第二小法廷判決・民集三二巻一号四三頁参照)。

そこで、以下、本件損失補償金ないし本件損失補償金に係る権利の特質を考慮しつつ、本件損失補償金をどの年分の収入に帰属させるべきかについて検討を加える。

2  国(防衛施設局長)が米軍用地使用等特措法に基づき土地を使用することによって土地所有者が受ける損失は、国が補償しなければならない(米軍用地使用等特措法一四条により適用される土地収用法六八条。以下米軍用地使用等特措法一四条により適用される土地収用法の規定については単に収用法〇条という。)が、その損失補償金にも種々のものがあり、例えば、収用法七二条の使用する土地に対する補償金、収用法七四条の残地に対する補償金、収用法七七条の使用する土地にある物件の移転料補償金、収用法八〇条の収用する物件に対する補償金、収用法八八条の離作料、営業上の損失その他土地を使用することによって土地所有者が通常受ける損失の補償金などがある。そして、証拠[甲一、原審証人冝保安浩]及び弁論の全趣旨によれば、本件損失補償金は、収用法七二条の使用する土地に対する補償に係るもののみであり、他の補償項目に係るものは含まれていないことが認められる。そこで、収用法七二条の補償金ないし同補償金に係る権利の特質について検討する。

3  収用法七二条の使用する土地に対する補償については権利取得裁決において定められる(収用法四八条一項二号、七二条、七三条)ところ、国は、権利取得裁決において定められた権利取得の時期(明渡裁決において定められた明渡しの期限ではない。)までに当該土地の所有者に対し右補償金の払渡しをしなければならず(同法九五条一項)、右時期までに補償金の払渡しをしないときは、権利取得裁決は、その効力を失い、裁決手続開始の決定は、取り消されたものとみなされる(同法一〇〇条一項)のであって、国は、右時期までに右補償金の払渡しをすることを条件として、右権利取得の時期において、裁決で定められたところにより、当該土地を使用する権利を取得し、当該土地に対するその他の権利は、使用の期間中は、行使することができないこととなる(収用法一〇一条二項)。

他方、当該土地の所有者は、権利取得裁決において定められた権利取得の時期までに収用法七二条の補償金の払渡しを受けることができる反面、明渡裁決において定められた明渡しの期限までに国に土地を引き渡さなければならないが、右引渡義務を履行すればそれで足り、それを超えて国に対し継続的に当該土地を使用させるという役務提供義務を負うものではない。土地所有者は国の使用を妨害することなくこれを受忍する義務を負うものではあるが、これは国が使用権を取得することにより生じる一般国民が国の使用権の行使を妨害してはならない義務と何ら変わるところはなく、右受忍行為をもって役務提供行為を観念することはできない。

また、当該土地上に物件があり土地所有者に右物件の移転義務があるのに土地所有者がこれを履行しない場合には、都道府県知事は、行政代執行法の定めるところに従い、自ら右移転行為をし又は第三者をしてこれをさせることができる上、その代執行に要した費用に充てるためその費用の額の範囲内で、土地所有者が受けるべき明渡裁決に係る補償金を土地所有者に代わって受けることができ、その場合右の限度で土地所有者に対し明渡裁決に係る補償金が支払われたものとみなされることになり、その分土地所有者が払渡しを受けるべき補償金の額が減少するが、権利取得裁決に係る補償金である収用法七二条の使用する土地に対する補償金の返還ないし減額がされることはないのであり(収用法一〇二条の二第二項ないし第四項)、右の規定に照らしても、収用法七二条の補償金は、土地所有者が国に対して有する土地引渡義務の履行とも関連性を有しないというべきである。

4  日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定二条三項は、合衆国軍隊が使用する施設及び区域は、この協定の目的のため必要でなくなったときは、いつでも、日本国に返還しなければならないと定め、米軍用地使用等特措法八条一項は、土地を使用する必要がなくなったときは、防衛施設局長は、遅滞なく、その旨を内閣総理大臣に報告しなければならないと規定し、同条二項は、内閣総理大臣は、右報告を受けたときは、土地の使用の認定が将来に向かってその効力を失う旨を官報で告示しなければならないと規定しており、また、収用法一〇五条一項は、防衛施設局長は、土地を使用する場合において、事業の廃止、変更その他の事由によって使用する必要がなくなったときは、遅滞なく、その土地を土地所有者に返還しなければならないと定めていることから明らかなように、米軍用地使用等特措法に基づく使用において、使用期間満了前に使用土地が返還される場合のあることが予定されている。

しかし、「収入の原因となる権利の確定」(前出の最高裁判決)とは、収入の原因となる法律関係が成立し、この法律関係に基づく収入を事実上支配管理しうる事実の生じたことをいい、将来における不確定な事情によって、権利の全部又は一部が消滅することなく、終局的に確定していることまでも要するものではないと解される。したがって、これを本件についていえば、権利取得裁決により、国は、定められた権利取得時期に土地の使用権原を原始取得し、右土地の所有者である被控訴人らは、国から本件損失補償金の一括支払を受けているというのであるから、被控訴人らは、右支払を受けた日以後は、本件損失補償金全額を事実上支配管理しうる状況に至ったというべきであり、右「権利の確定」を判断するに当たっては、将来国から使用期間満了前に使用土地が返還された場合に、被控訴人らが本件損失補償金のうち未使用期間に相当するものを国に返還する義務が発生するか否かといった事情は考慮する必要がないのである。

5  以上にみてきたように、収用法七二条の補償金は使用する土地そのものに対するものであり、国は、権利取得の時期までに右の補償金を払い渡すことを条件として右の時期において当該土地を使用する権利を取得し、他方、土地所有者は、右の時期までに右の補償金の払渡しを受けることができ、土地所有者としては、明渡しの期限までに当該土地を明け渡しさえすれば、その後は他の一般国民と同様に国の使用権の行使を受忍する義務を負うのみであって、そこには継続的な役務の提供行為を観念することはできず、また、右明渡しの不履行でさえ収用法七二条の補償金の保持に影響するものではない。このような収用法七二条の補償金ないし右補償金に係る権利の特質に徴すると、本件損失補償金は、国からみれば、当該土地に対する国による使用権取得の対価であり、土地所有者からみれば、使用権の設定それ自体による当該土地に対する損失補償金の性質を有するものというべきであって、本件損失補償金の払渡しは右権利取得の時期より前にされたものではあるがこれを収入すべき権利ないし保持する権利は、権利取得裁決において定められた権利取得の時期において確定したものであり、それゆえに、被控訴人らは、特段の事情のない限り、本件損失補償金全額について、返還の必要に迫られることなくこれを自由に管理支配できるのであるから、右権利取得の時期において右補償金に係る所得の実現があったものと解するのが相当であり、したがって、本件損失補償金は昭和六二年分の総収入金額に算入されるべきものである。なお、右特段の事情が発生した場合には、国税通則法二三条二項一号又は三号、同法施行令六条一項一号により更正の請求をすれば足りるのであり、むしろ、右のような規定の存在は、右特段の事情が発生する可能性があることを根拠として本件損失補償金に係る所得が未だ実現されていないという見解と相容れないものである。

収用法七二条の補償金である本件損失補償金ないし右補償金に係る権利の特質及び右補償金を収入すべき時期について、右のように解することは、次のとおり税法の関係規定とも整合性を有する。

6  まず、収用法七二条の補償金は、所得税法三三条の譲渡所得に該当する場合があることが予定されている。

譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいい、保有資産の増加益について、右資産が譲渡によって保有者の手を離れるのを機会に、右増加益に相当する所得の実現があったものとして課税することとされている。そして、同条は、建物所有を目的とする借地権等の設定により土地の利用が長期にわたって固定され土地の用益権と底地権とが分離されたと認められ、反面右設定の対価としてある程度のまとまった金額が支払われる場合に、実質的に土地所有権の一部である用益権部分の譲渡があったとみられるという考え方の下に、用益権部分について増加益の実現があったものとしてこれを譲渡所得として課税することとし、他方、不動産所得として累進税率を適用することに伴う負担を軽減している。ただ税務上、資産の譲渡に当たるか否かについては画一的な基準が要請されることから、同条一項は、資産の譲渡について、建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含むとし、これを受けて、所得税法施行令七九条は、右の行為について、建物若しくは構築物の所有を目的とする地上権若しくは賃借権又は特定の地役権の設定のうち、その対価として支払を受ける金額がその土地の価額の十分の五に相当する金額を超えるものをあげている。

ところで、租特法三三条一項、同法施行令二二条一項は、土地が米軍用地使用等特措法の規定に基づいて収用され、補償金を取得する場合において、その全額を課税の対象とすると、個人の生活保持のための代替資産の取得を阻害する結果になりかねないことから、右収用等による譲渡した資産のうち代替資産の取得価額に相当する部分については譲渡がなかったものとみなし、譲渡所得の取得価額と取得時期とを代替資産に引き継がせることにより課税を繰り延べることとしたものであり、租特法三三条三項は、土地が米軍用地使用等特措法の規定に基づいて使用され、補償金を取得する場合において、当該土地を使用させることが所得税法三三条一項に規定する建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものに該当するときには、租特法三三条一項の規定の適用については、土地について収用等による譲渡があったものとみなす旨規定しているが、このことは、米軍用地使用等特措法に基づく使用が右の要件を充足している場合には、その補償金について譲渡所得の規定が適用されることが前提となっているものと解される。

その補償金が譲渡所得となる場合としては、例えば、右使用権が建物所有を目的とするもので、その使用権設定の対価として支払を受ける補償金の額がその土地の価額の十分の五に相当する金額を超える場合があげられるが、ここにいう使用権設定の対価とは、租特法三三条五項が「(同条)一項一号に規定する補償金の額は、名義がいずれであるかを問わず、資産の収用等の対価たる金額をいうものとし、収用等に際して交付を受ける移転料その他当該資産の収用等の対価たる金額以外の金額を含まないものとする。」と定めていることをも併せ考えると、収用法七二条の使用する土地に対する補償金をいうものと解されるのである。そして、そのことは、右補償金の額については、それが土地の価額の十分の五に相当する金額を超えるか否かを問わず、一括してその全額がある年分の総収入金額に算入されるべき金額であることを示しているのである。

これに対し、被控訴人らは、米軍用地使用等特措法に基づく使用の場合の補償金が譲渡所得に該当するのは、借地権設定契約における権利金に相当する使用権設定の対価が支払われる場合であり、本件損失補償金のように賃料の一括前払いの性質を有する補償金の支払の場合には適用されないと主張するが、使用する土地に対する補償金に借地権設定契約におけるいわゆる権利金などと賃料の区別に相当するような区別がないことは収用法七二条の規定からも明らかであり、また、収用法七二条に基づいて算定された補償金が譲渡所得に該当しないとすると、租特法三三条三項一号に該当する場合はないこととなり、同項は無意味な規定となってしまうことに照らすと、被控訴人らの右主張は採用できない。

7  次に、所得税法は、役務の提供を約することにより一時に取得する契約金に係る所得その他の所得で臨時に発生するもののうち政令で定めるものを臨時所得とし(二条)、右の所得が特定の年分に全額帰属することを前提とした上で、これを五年間にわたって平準化して累進課税による負担を緩和するため平均課税の適用を認めている(九〇条)。そして、所得税法施行令八条は、臨時所得として、一定の場所における業務の全部又は一部を休止し、転換し又は廃止することとなった者が、当該休止、転換又は廃止により当該業務に係る三年以上の期間の不動産所得、事業所得又は雑所得の補償として受ける補償金に係る所得(三号)、不動産を有する者が、三年以上の期間、他人に右資産を使用させること(地上権その他の当該資産に係る権利を設定することを含む。)を約することにより一時に受ける権利金その他の対価で、その金額が当該契約による右資産の使用料の年額の二倍に相当する金額以上であるものに係る所得(譲渡所得に該当するものを除く。)(二号)その他これらに類する所得をあげており、税法は、これらの所得についてはその全額が特定の年分に帰属されるべきものであることを前提としていると解される。

ところで、事業所得は、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう(所得税法二七条一項)が、これらは自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動から生ずる所得であり、これらの事業を営む者が商法上の商人に該当する場合(商法四条)が少なくなく、その場合には、営業上の財産及び損益の状況を明らかにするため商業帳簿を作成することが必要とされ、その作成に関する規定の解釈については公正なる会計慣行を斟酌することとされており(商法三二条)、また商法上の商人に該当しないとしても、右所得は企業活動から生ずる所得であるから、いずれにしても、事業所得については、法人税の課税所得の計算(法人税法二二条四項参照)と同様に、適正な期間損益計算を目的とする企業会計の処理基準に従った算定方法が広く採用されるべきである。そして、将来の数年分の逸失利益(事業所得)に対する補償を一括して受領した場合に、適正な期間損益計算に重きを置く立場からはその算定の基礎に従って毎年合理的に分割して総収入金額に算入すべきであるとの考えもあり得ると考えられるが、所得税法及び同法施行令は、その事業所得の場合でさえ、右補償金は、これを受領した時点において既に確定した収入であり、これを将来に繰り延べる理由がないものとして、その補償の対象となっている逸失利益たる収入の性質如何にかかわらず、その全額を特定の年分の総収入金額に算入すべきこととしたものと解されるのである。そうすると、本件損失補償金は前記のとおり国の使用権取得の対価であり使用土地に対する補償の性質を有するものではあるが、仮に、被控訴人らの主張するように一〇年間にわたる継続的な役務提供の対価である賃料の補償の性質を有するとしても、税法は、これを補償金として一括受領している場合には、その算定基礎に従って毎年分割して総収入金額に算入していくことを許容してはいないと解するのが相当である。

また、所得税法施行令八条二号の所得は、契約により土地等の不動産に三年以上の期間の使用権を設定するに際し、一時に受ける権利金その他の対価で使用料の年額の二倍に相当する金額以上であるものに係る所得であるが、譲渡所得に該当するものが除かれていることに照らすと、税法は、契約による土地に対する使用権の設定が、建物若しくは構築物の所有を目的とする地上権若しくは賃借権又は特定の地役権の設定等のうち、その対価として支払を受ける金額がその土地の価額の十分の五に相当する金額を超えるものであるときは、これによる所得を譲渡所得とし、譲渡所得の要件を充たさない場合には、これを臨時所得として平均課税の適用を認め、右の所得を不動産所得として累進税率を適用することに伴う負担を軽減することとしたものと解される。そして、米軍用地使用等特措法による使用の場合に譲渡所得の適用があることが予定されていることは前記のとおりであり、右の一連の制度の趣旨からすると、契約によるものではないとの一事をもって、平均課税の適用を否定することはできないのであって、収用法七二条の補償金が譲渡所得の要件を充たさない場合には、所得税法施行令八条二号の所得に類する臨時所得として平均課税の適用が予定されていると解するのが自然である。このことは、収用法七二条の補償金である本件損失補償金全額がある特定の年分の総収入金額に算入されるべきことを示している。

8  これに対し、被控訴人らは、(一)国が賃貸借契約に基づき土地を使用する場合と米軍用地使用等特措法に基づき土地を使用する場合とで何ら使用の態様が異なるものではないこと、(二)本件損失補償金は、使用する土地及び近傍類地の地代を基礎として算定されていること、(三)昭和四二年法律第七五号による削除前の米軍用地使用等特措法一〇条(以下「米軍用地使用等特措法一〇条」という。)は、土地の使用に対する損失補償の金額の支払について、使用の期間が一年を超えるときは、当該使用に対する損失補償の金額を一年分ごとに分割して支払うことができる旨定めていたことを指摘し、これらは、本件損失補償金が土地を使用させるという継続的な役務提供の対価である賃料の前受金たる性質を有し、その使用期間の経過とともにこれを収入すべき権利が確定していくことを裏付けていると主張する。

しかしながら、収用法七二条の補償金である本件損失補償金ないし右補償金に係る権利の特質や右補償金に係る税法の規定について検討を加えてきたところに照らすと、契約による場合と米軍用地使用等特措法による場合とで国の使用態様が異ならないことは、本件損失補償金を総収入金額に算入すべき時期を決定する上で重要性を有するものではないし、収用法七二条は、使用する土地に対する補償金の額をいかに算定すれば正当な補償となるかという観点から、その算定に当たり当該土地及び近傍類地の地代等を考慮すべきことを定めたにすぎず、そのことから直ちに本件損失補償金の性質やこれを総収入金額に算入すべき時期を決定し得るものではない。また、米軍用地使用等特措法一〇条は、収用法七二条の補償金を一年分ごとに分割して支払うことができる旨定めていたが、これは本来であれば、収用法九五条一項により、国は、権利取得裁決において定められた権利取得の時期までに収用法七二条の補償金の払渡しをしなければならないが、例外的に一年分ごとに分割して支払うことができることとして右支払方法の特例を定めたにすぎないものであるから、右の場合に各年分の損失補償金がどの年分の総収入金額に算入されるかはさておき、米軍用地使用等特措法一〇条の規定が存在するがゆえに、収用法九五条一項により権利取得の時期までに収用法七二条の補償金が払い渡される場合の右補償金の性質やこれが総収入金額に算入される時期を左右するものではない。ましてや、右規定は昭和四二年法律第七五号により削除されたのであり、収用法七二条の補償金の性質やこれが総収入金額に算入される時期について疑義の生ずる余地はないというべきである。したがって、被控訴人らの主張を採用することはできない。

以上のとおりであるから、本件損失補償金は全額昭和六二年分の総収入金額に算入すべきである。

二  本件損失補償金の所得区分

1  不動産の貸付(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)は、不動産所得とされている(所得税法二六条一項)。前記のとおり本件損失補償金が土地に国の使用権を設定した対価であることや租特法三三条一項一号が米軍用地使用等特措法の規定に基づいて使用される場合に「土地を使用させること」という文言を使っていることに照らすと、米軍用地使用等特措法に基づいて使用される場合は、所得税法二六条一項の「他人に不動産を使用させること」に含まれるものと解するのが相当である。そして、収用法七二条の使用する土地に対する補償金は、事業所得に係る収入金額に代わる性質を有するものとはいえないから、事業所得ともいえず(所得税法施行令九四条参照)、本件損失補償金は、譲渡所得又は不動産所得のいずれかに区分されるものと解される。

2  そこで、まず、本件損失補償金が譲渡所得に該当するか否かについて検討する。

譲渡所得の意義、範囲及び課税の趣旨については前記のとおりであり、本件損失補償金が譲渡所得となるためには、建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるもの(建物若しくは構築物の所有を目的とする地上権若しくは賃借権又は特定の地役権の設定のうち、その対価として支払を受ける金額がその土地の価額の十分の五に相当する金額を超えるもの)による所得であることが必要である(所得税法三三条一項、同法施行令七九条一項一号。なお、租特法三三条一項、三項の規定に照らすと、右の資産の譲渡とみなされる行為は必ずしも契約による行為に限られるわけではなく、米軍用地使用等特措法に基づき使用される場合も右行為とみなされる場合があると解されることは前記のとおりである。)。

証拠[甲一、乙一三、一四、一五の1ないし5、一六の1、2]及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人らに対する本件使用裁決は、被控訴人らの所有地を含む沖縄県国頭郡伊江村北西部にある伊江島補助飛行場内の一部の未契約土地約二八万四〇〇〇平方メートルについてされたものの一つであるが、右裁決において、これらの土地の使用方法については、日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の空対地射爆撃訓練場用地として使用することとされたこと、現実にもこれらの土地は契約地主の土地と一体となって米軍の射爆撃訓練場用地として使用され、そのうち被控訴人ら所有地付近は、後に、金網フェンスで囲まれ、ハリヤー(垂直離着陸機)の訓練及び海兵隊の夜間訓練に利用されるようになったこと、右フェンス内の土地上には、五個の建造物、管制塔及び木造の倉庫様の建物並びに仮設の構造物である滑走路、ハリヤーパット及びテント等があるが、その占める割合は僅少であり、しかも、被控訴人らの所有地上には建造物も構築物もなく、滑走路付近の土地を除き全く手入れもされずに放置された状態であること、以上の事実が認められるところ、右使用裁決に係る被控訴人所有地を含む未契約土地の使用目的や使用実態に照らすと、本件使用裁決に係る使用権の設定は、到底、建物又は構築物の所有を目的としたものとはいえないし、また、所得税法施行令七九条一項掲記の地役権の設定に相当するものともいえない。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件使用裁決に係る使用権の設定は、所得税法三三条一項にいう資産の譲渡に当たらないものであり、本件損失補償金に係る所得を譲渡所得ということはできない。

3  これに対し、被控訴人らは、被控訴人らの土地は昭和一九年以来米軍用地として使用され、用益権と底地権が分離された状況に置かれ、今後も長期間にわたり使用されることが予測されるものであるから、所得税法三三条一項、所得税法施行令七九条一項が本来予定していた用益権の譲渡とみなされる典型的事例であると主張する。しかしながら、所得税法三三条一項は、資産の譲渡とみなす「他人に土地を長期間使用させる行為」について政令に委ね、社会経済情勢の変化に対応して必要に応じ随時その範囲を定めていく立法方針をとっており、現に所得税法施行令七九条一項は、右の行為について限定的に列挙し、逐次改正追加されているのであり、ある使用権の設定について用益権と底地権に分離され用益権が譲渡されたのと同視できるからといって、同条項を安易に類推適用することは許されないといわなければならない。そして、同条項には、資産の譲渡とみなされる行為の要件として、米軍用地使用等特措法に基づく使用は列挙されていないのであるから、本件損失補償金に係る所得を譲渡所得に該当するものということはできず、被控訴人らの主張は採用できない。

したがって、本件損失補償金に係る所得は不動産所得に該当するものである。

三  平均課税の適用

前記のとおり、所得税法は、居住者のある年分に臨時所得がある場合には、これを五年間にわたって平準化し累進税率の適用による負担を緩和するため、平均課税方式を採用し、臨時所得の金額がその年分の総所得金額の百分の二十以上である場合に、(一)その年分の課税総所得金額から臨時所得の金額の五分の四に相当する金額を控除した金額(当該課税総所得金額が臨時所得の金額以下である場合には当該課税総所得金額の五分の一に相当する金額。以下「調整所得金額」という。)をその年分の課税総所得金額とみなして計算した税額と(二)その年分の課税総所得金額に相当する金額から調整所得金額を控除した金額(臨時所得の金額の五分の四又は課税総所得金額の五分の四)に右の税額の調整所得金額に対する割合(平均税率)を乗じて計算した金額の合計額を、その年分の課税総所得金額に係る所得税の額とすることとしている(九〇条)。

そして、収用法七二条の補償金である本件損失補償金が譲渡所得の要件を充たさない場合には、所得税法施行令八条二号の要件を具備すれば、同号所定の所得に類する臨時所得として平均課税の適用が予定されていると解するのが自然であることは前記のとおりである。そこで、本件損失補償金が同号の要件を充たしているか否かについて検討すると、本件使用裁決に係る使用期間は一〇年であり、本件損失補償金を算定する際に考慮された当該土地及び近傍類地の地代の年額の二倍に相当する金額以上であることは証拠[甲一、原審証人冝保安浩]及び弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、不動産所得である本件損失補償金に係る所得は、所得税法施行令八条二号の所得に類する臨時所得に当たるものと解され、平均課税の適用がある(なお、証拠[乙一の1、2]によれば、被控訴人らが本件確定申告に当たり提出した確定申告書には、所得税法九〇条一項の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細の記載があることが認められる。)。

四  資産所得合算課税の適用

昭和六三年法律第一〇九号による削除前の所得税法九六条ないし一〇一条は、生計を一にする一定範囲内の親族(例えば、夫と妻)の中に資産所得(例えば、不動産所得)を有する者がいる場合には、これらの者の中で総所得金額から資産所得の金額を控除した金額が最も大きい者、右控除した金額のある者がいないときは資産所得の金額が最も大きい者(主たる所得者。例えば、夫)が、自己の所得のほかその他の親族(合算対象世帯員。例えば、妻)の資産所得を有するものとみなして計算した所得税の額に相当する金額(合算所得税額)を主たる所得者の総所得金額と合算対象世帯員の資産所得の金額の比に按分した金額を各人の所得税の額とする(ただし、主たる所得者の総所得金額及び合算対象世帯員の資産所得の金額の合計額からこれらの者に係る同法七二条一項(雑損控除)に規定する損失の金額とこれらの者の支払った同法七三条一項(医療費控除)に規定する医療費の金額との合計額を控除した金額が一五〇〇万円以下である場合には、合算課税は適用されない。)、いわゆる資産所得合算制度を採用していた。この制度は、資産所得は通常世帯主の支配に委ねられることが多く、世帯を単位として担税力に応じた課税をすることが適当であること、及び資産所得はその性質上名義を分散することが容易であるため、その分散如何によって生じる税負担の著しい差異を排除し、公平な課税をする必要があることから、創設されたものであり、被控訴人らについても、その要件が充足された場合には、資産所得合算課税の適用があるものと解される。

これに対し、被控訴人らは、資産所得合算課税制度は、憲法一三条、二九条に違反すると主張するが、憲法上租税に関する事項は法律又は法律に基づいて定められるところに委ねられていると解すべきところ(憲法八四条)、被控訴人らの主張は、特定の法律における具体的な税額計算の定めに関する立法政策上の適不適を争うものにすぎず、違憲の問題を生ずるものではないから、採用することができない。

また、被控訴人らは、公用使用による損失の補償の場合、公益的理由から強制的に使用期間に対応する損失補償金を一括受領させて合算課税最低限度額を超える資産所得を生じさせ、合算課税の適用を不可避なものにし、租税負担の公平を害することになるから、右損失補償金は資産所得合算課税の対象とはならないと主張する。しかしながら、前記削除前の所得税法は、特に、公用使用による損失補償金に係る所得を資産所得から除外してはいないし、資産所得合算課税制度の趣旨に照らしてもこれを除外しなければならない理由は見出せない。また、前記のとおり、被控訴人らにおいて昭和六二年三月二五日に本件損失補償金全額の払渡しを受け、これを収入すべき権利が同年中に確定したものである以上、国において、右損失補償金につき合算課税の適用を受けないような措置を講ずべき法的義務はなく、却って右合算課税を適用しないときは、同一の要件を充足する他の被課税者との間で課税に不公平が生じる。したがって、被控訴人らの右主張は採用できない。

五  税額の計算

以上に基づき、被控訴人らの納付すべき税額を計算すると、次のとおりである。

本件損失補償金として被控訴人昌鴻が払渡しを受けた九四五九万二七二八円及び被控訴人喜代が払渡しを受けた二二九〇万六六九二円は、いずれも昭和六二年分の不動産所得に係る総収入金額に算入されるべきものであり、本件確定申告における不動産所得に係る必要経費の金額を控除して不動産所得の金額を計算すると、被控訴人昌鴻については八五一三万三四五五円、被控訴人喜代については二〇六一万六〇二三円となる。被控訴人昌鴻の総所得金額は、事業所得に係る損失の金額五五〇万八五八〇円を控除した七九六二万四八七五円であり、被控訴人喜代の総所得金額は二〇六一万六〇二三円である。

被控訴人らは生計を一にする夫婦であり(乙一の1、2、弁論の全趣旨)、いずれも総所得金額から資産所得の金額を控除した金額がないから、資産所得合算課税を適用する場合は、資産所得の金額が大きい被控訴人昌鴻が主たる所得者、被控訴人喜代が合算対象世帯員となる。被控訴人らには、前記の雑損控除に係る損失の金額及び医療費控除に係る医療費の金額はなく、被控訴人昌鴻の総所得金額及び被控訴人喜代の資産所得の金額の合計額は一五〇〇万円を超えるから、被控訴人らの税額の計算においては、資産所得合算課税が適用される。まず、被控訴人昌鴻の総所得金額に相当する金額に被控訴人喜代の資産所得の金額を加算した金額一億〇〇二四万〇八九八円をもって被控訴人昌鴻の総所得金額とみなされる。

そのうち臨時所得の金額は被控訴人らの不動産所得の金額の合計額である一億〇五七四万九四七八円であり、その年分の総所得金額の百分の二十以上であるから、平均課税が適用される。所得控除額は八三万一三〇〇円であるから課税総所得金額は九九四〇万九〇〇〇円である。これに平均課税を適用すると、課税総所得金額に係る所得税の額は三三九五万七五二〇円となり、これが合算所得税額となる。

これを被控訴人昌鴻の総所得金額と被控訴人喜代の資産所得の金額の比に按分してそれぞれの所得税の額を計算すると、被控訴人昌鴻については二七一六万六〇〇〇円、被控訴人喜代については六七九万一五〇〇円となる。

六  課税における公平原則違反の主張について

証拠[甲一、乙一三、一四、一五の1ないし5、一六の1、2、一九の1ないし3、二〇]及び弁論の全趣旨によれば、米軍に提供されている施設の一つである伊江島補助飛行場に存する土地は、契約地主の土地も被控訴人らを含む反戦地主の土地も、いずれも同一の使用方法で使用されていること、契約地主と国との間で交わされる土地賃貸借契約書において、契約期間は国の会計年度に合わせて一年間とされ、毎年度期間の更新が行われ、賃料も右各契約期間内に一年分の支払がされる旨約されていることが認められる。

被控訴人らは、右事実を指摘した上で、契約地主の場合は一年分の賃料について毎年課税されるのに対し、被控訴人らの場合は一〇年分の賃料に相当する金額の本件損失補償金を一括して払い渡されるためその年分の不動産所得として課税され累進税率の適用による負担が契約地主よりも重く、現に、本件損失補償金を一年ごとに受領するとした場合一一年分の税額は合計一二一〇万五〇五七円である(中間利息を三パーセントとした場合)のに対し、これを一括して受領すると税額は三三九五万七五〇〇円となり、著しい不公平が生じるから原処分は憲法一四条が保障する租税における公平原則に反し、違法であると主張する。

しかしながら、このような税額の違いが生じるのは、昭和六二年において、契約地主が一年分の賃料しか受領しておらず右賃料分しか収入すべき権利が確定していないのに対し、被控訴人らが昭和六二年五月一五日から一〇年間の使用権設定の対価である本件損失補償金全額の払渡しを同年三月二五日に受けこれを収入すべき権利が同年五月一五日の時点で確定しており、昭和六二年分の総収入金額に算入すべき金額に右のような差がある上、これに累進税率を適用することによるものであって、本件更正処分に係る課税が公平原則に反しているということはできない。

これに対し、被控訴人らは、国との間で賃貸借契約を締結して国に使用させることは被控訴人らの思想、信条に反するがゆえに、あえて累進税率の適用による税負担の軽い国との契約を拒否するほかなく、そうすると、米軍用地使用等特措法に基づき使用されることになり、損失補償金の一括受領を強いられるが、ここで、被控訴人らに対し契約地主よりも高率の税率を課することは、被控訴人らを思想、信条により差別するとともに、被控訴人らの思想、信条の自由を侵害するものであるから、本件更正処分に係る課税は憲法一四条、一九条に反する違法なものと主張する。

しかしながら、右のとおり、被控訴人らは昭和六二年三月二五日に本件損失補償金の払渡しを受け、右損失補償金を収入すべき権利は同年中に確定し、同年分の総収入金額に算入されるべきものである以上、これを前提として所定の総所得金額及び所得税の額の計算の規定に従って税額を算定すべきであって、これら一連の所得税法の規定それ自体は特定の者をその思想、信条により差別するものでも、その思想、信条の自由を侵害するものでもない上、右の規定によることなく契約地主と同額の税額を課すときは、同一の要件を充たす他の納税者との間で課税に不平等、不公平が生じるだけでなく、契約地主との間でも平等、公平を欠くことになるのであり、さらに、本件損失補償金に係る不動産所得について税額計算の過程において平均課税が適用され五年間にわたって平準化され累進税率の適用による負担が緩和されていることを考慮すると、租税法規の適用におけるこれら納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてまでもなお、被控訴人らに対する課税の段階において、本件損失補償金に係る被控訴人らの税負担を契約地主のそれと同程度にしなければ正義に反するといえるような特別な事情を見出すことはできないのであって、本件更正処分に係る課税自体が憲法一四条、一九条に反するとはいえない。

むしろ、被控訴人らの主張は、本件損失補償金の払渡しの方法について、一年ごとの分割払いとするか権利取得の時期までの全額払いとするかといった選択の余地がなく、一方的に後者の方法を強いられることの違法、すなわち、損失補償の方法自体の違法、あるいは、本件使用裁決において、契約地主よりも税負担が重いことを考慮して損失補償金の額が定められなかったという損失補償額に対する不服をいうものと解されるところ、前記のとおり被控訴人らは昭和六二年中に本件損失補償金の払渡しを受けてこれを収入すべき権利が確定している以上、被控訴人らの主張に係る違法又は不服は、本件更正処分に係る課税の違法をもたらすものと解することはできない。被控訴人らの主張は採用できない。

七  過少申告加算税賦課決定の違法の主張について

被控訴人らは、昭和六三年三月一一日、本件確定申告をした後、同年八月二四日付けで更正処分及び過少申告加算税賦課決定を受け、平成元年三月八日付けで更正の請求をしたことは争いがなく、過少申告加算税賦課決定に対して、不服申立てがされないまま不服申立期間が経過したことは弁論の全趣旨から明らかである。

ところで、右の更正の請求とは、納税申告書を提出した者が、当該申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと等により、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があった場合には、当該更正後の税額)が過大であるときなどに、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し更正があった場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をするものであり(国税通則法二三条一項)、これに対し減額更正がされ、あるいは、更正をすべき理由がない旨の通知処分がされても右通知処分が取り消されるなどして過少申告加算税の計算の基礎となる所得税額に変動が生じた場合に税務署長が過少申告加算税の計算の基礎となる税額及び納付すべき税額を変更する決定をする(同法三二条二項)ことはあっても、既に過少申告加算税賦課決定に対し不服申立てがされないまま不服申立期間が経過し、納税申告者から不服申立てができない状態になったときには、右通知処分の取消訴訟において、右過少申告加算税賦課決定の違法を主張し、右賦課決定の取消しを求めることはできないといわざるを得ない。

したがって、被控訴人らは、本件訴訟において、過少申告加算税賦課決定の取消しを求めているかのようであるが、仮にそうであったとしても、右のとおり、過少申告加算税賦課決定の違法を主張し、右賦課決定の取消しを求めることはできないし、ましてや右の違法を主張して右通知処分である原処分の取消しを求めることはできないのであって、被控訴人らの主張は失当といわなければならない。

仮に、過少申告加算税賦課決定の違法を主張できるとしても、これに関する被控訴人らの主張は、「第二 事案の概要」「二 争点」「1 被控訴人らの主張」の(四)記載のとおりであり、要するに、名護税務署職員がことさら後の更正処分の内容と異なる指導をしたというものではなくて、本件確定申告前に被控訴人らが更正の請求の内容と同一の確定申告をしたい旨主張してきたのに対し、本件損失補償金全額を昭和六二年分の不動産所得の総収入金額に算入して総所得金額及び税額を計算する申告しか認められないと指導したというものであり、右の機会に合わせて資産取得合算課税による確定申告をするよう指導助言してくれなかったというにすぎないのである。そうすると、過少申告加算税賦課決定が信義則に反するとは、到底いうことはできないのであって、被控訴人らの右主張はこの点からも失当といわなければならない。

八  結論

以上のとおりであって、本件更正処分に違法はなく、被控訴人らの更正の請求に対する、更正をすべき理由がない旨の控訴人の各通知処分(原処分)に違法はないから、本件請求はいずれも理由がなく棄却すべきであり、これと異なる原判決は不当であるからこれを取り消すこととし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岩谷憲一 裁判官角隆博 裁判官伊名波宏仁)

別表分離長期譲渡所得の税額<省略>

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